岡本和真が山本由伸から放った二塁打。ABS判定を味方にした「眼」と、沈むチームの1対4【4/7ドジャース戦】

抵抗するも・・・ MLB 2026

トロント、ロジャーズセンター。 ドームの屋根を叩く春の雨音が、密閉された球場内に微かな振動として伝わっていました。 2026年4月7日。

人工芝の緑が照明に照らされ、独特の眩しさを放つ中で、背番号25は静かにバットを湿らせていました。 ブルージェイズの岡本和真選手。 彼が対峙するのは、かつて日本で何度もその球筋を追いかけた、あの右腕でした。

マウンドに立つ山本由伸投手は、まるで氷のような静寂を纏っています。 投球練習のボールが捕手のミットに収まるたび、乾いた音がドームの隅々まで響き渡りました。

ブルージェイズのファンは、昨季のワールドシリーズでこの右腕に完璧に抑え込まれた記憶を拭い去れずにいます。 スタンドには、期待よりも、どこか警戒に近い緊張感が漂っていました。

沈黙するバットと、精密な右腕の呼吸

試合は、あの右腕の独壇場で幕を開けました。 内外角を丹念に突く制球。 打者の手元で鋭く曲がる変化球。 ブルージェイズの打線は、まるで網に掛かった魚のように、自由なスイングを許されませんでした。

岡本選手に最初の打席が回ってきたのは、2回裏。 無死二塁という絶好の先制機でした。 しかし、彼が放った打球は力なく上がり、二塁手のグラブに収まります。

「打てる」と思った球が、あと数ミリのところでバットの芯を外される。 日本での対戦成績は良くても、ここはメジャーの舞台。 ボールの動く幅も、マウンドの傾斜も、観客が放つ熱も、すべてが異なっています。

5回の第2打席。 彼は3ボールから、真ん中低めの直球を迷わず振り抜きました。 捉えた、という手応えはあったはずです。 打球は左翼席へと伸びていきましたが、失速しました。

フェンスの前で野手のグラブが打球を吸い込み、岡本選手は天を仰ぐこともなく、足早にベンチへと戻っていきました。 あの右腕の投じる球は、空気を切り裂く力が違います。 完璧に捉えたと思った一打さえ、スタンドまでは届きませんでした。

7回、審判の右手を下ろさせた「静かな確信」

2点を追う7回。 この夜、もっとも濃密な時間が訪れました。 先頭打者として打席に立った岡本選手。 カウント1ボール2ストライク。 4球目。

山本の投じた外角へのスライダーが、美しい弧を描いてミットに吸い込まれました。 球審の右手が、力強く突き上げられます。

見逃し三振。 スタンドから溜息が漏れ、山本由伸が次の打者へ視線を移そうとした、その時でした。 岡本選手は動きませんでした。

ただ、球審を真っ直ぐに見つめ、ヘルメットの鍔に手を添えて、静かにベンチへと合図を送ります。 ABS(自動判定システム)へのチャレンジ。

巨大なモニターに、ボールの軌道が映し出されました。 ドーム内が静まり返ります。 白線で示されたストライクゾーン。 ボールは、その外側を、わずかに、本当にわずかに通り過ぎていました。 「ボール」 判定が覆った瞬間、球場はどよめきに包まれました。

「今日はちょっと外のストライクゾーンが広いなと感じたので。やるしかないと思いました」 試合後、彼は淡々とそう語りました。

機械の目さえ味方にする、研ぎ澄まされた選球眼。 あの瞬間の彼には、審判の目よりも、自分の感覚こそが真実であるという確信があったのでしょう。

仕切り直しとなった7球目。 山本が投じた96.2マイル(約154.8キロ)の直球。 岡本選手は、それを逃しませんでした。 乾いた打球音が響き、白球は右中間を真っ二つに割っていきました。

メジャー移籍後、初めて放った二塁打。 二塁ベースに到達した彼は、ようやく一つ、深く息を吐きました。 かつての相性の良さを証明するかのような一打。 それは、あの右腕をマウンドから引きずり下ろす、決定的なきっかけとなりました。

泥沼の連敗と、荒れる指揮官

しかし、個人の奮闘も虚しく、チームの足元には深い泥が溜まっていました。 5回には、エースのガウスマン投手がボークを宣告されました。

これに激昂したシュナイダー監督がベンチを飛び出し、審判に猛抗議。 顔を真っ赤にして叫ぶ指揮官。 数分後、彼は退場を言い渡され、不満げにグラウンドを去りました。

チームはこれで6連敗。 6試合で失った点は34。奪った点は、わずかに11。 強力打線と謳われた昨季の面影は、どこにもありません。

「誰かがビッグヒットを打つことだ。チャンスはある」 監督は試合後、そう絞り出すように言いました。 その「誰か」に、岡本選手はなろうとしています。

けれど、野球は一人では勝てないスポーツです。 彼が二塁打で築いた無死満塁のチャンスも、後続が倒れ、無得点に終わりました。 その沈黙が、今のブルージェイズの現状を物語っています。

明日のマウンドに立つ、もう一人の怪物

試合が終わった後のロジャーズセンターは、負けに慣れてしまったような、冷ややかな空気に包まれていました。 1対4。 掲示板に刻まれた数字を見上げ、岡本選手は何を思ったでしょうか。

明日。 彼の前には、さらなる怪物が立ちはだかります。 大谷翔平選手。 打者としてだけでなく、投手としてマウンドに上がる背番号17。 「僕が2年目の時に一度だけ対戦しているんですけど。

打者としても投手としても凄いと思う。凄く楽しみです」 彼の言葉には、高揚感よりも、むしろ静かな決意が混じっていました。

チームの連敗を止めるために。 自分を4番、5番という重責に置いた期待に応えるために。 彼は明日、またあの四角い打席に入ります。 トロントの夜は更けても、室内練習場からは、バットが空を切る音がいつまでも聞こえていました。

明日、彼が描く放物線は、今度こそトロントの空を突き抜けるのでしょうか。 答えは、最初の一球が投げられる瞬間に、また動き出します。

(参照:スポニチ ブルージェイズ6連敗 岡本和真は由伸撃ち二塁打 次戦の投手・大谷との対戦は「凄く楽しみ」

まとめ

  • 岡本和真が山本由伸とのメジャー初対決で、第3打席に右中間への二塁打を放つ。
  • 7回、見逃し三振の判定をABSチャレンジで覆し、その直後に快音を響かせた。
  • ドジャースの山本由伸は7回途中1失点で今季2勝目。ブルージェイズ戦は通算4戦4勝。
  • ブルージェイズは投打が噛み合わず6連敗。シュナイダー監督は退場処分となった。
  • 明日は「投手・大谷翔平」との日本人対決が予定されており、チームの連敗脱出がかかる。

ロッカーを後にする岡本選手の背中は、どこか誇らしげで、それでいてひどく重い荷物を背負っているようにも見えました。 次の一打が、チームを救う光になるのか。

それとも、連敗の闇がさらに深まるのか。 私たちは明日、またその答えを探しに球場へ向かうことになります。

(合わせて読みたい:山本由伸がブルージェイズ戦で今季2勝目。岡本和真との対戦と、4戦全勝を支えるマウンド上の呼吸

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