ワシントンD.C.、ナショナルズ・パーク。 4月の雨は、肌を刺すような冷たさを運んできました。 2026年4月5日(日本時間6日)。
試合開始を告げるサイレンは、予定から2時間10分が過ぎても鳴り響きません。 内野を覆う重いシートを雨粒が叩く音だけが、静かなスタジアムに反響していました。
ドジャースの背番号11、佐々木朗希選手は、その間、ベンチの裏で何度も肩を回し、指先の感覚を確かめていたはずです。
ようやく雨が上がり、ぬかるんだ土の上に砂が撒かれました。 午後3時45分。 湿り気を帯びた空気の中、彼はゆっくりとマウンドへ歩みを進めました。
ドジャース 佐々木朗希pic.twitter.com/xghTPTkp4e
「今日が最後のスプリングトレーニングだったので、シーズン本番を意識した中で、ちゃんとパフォーマンスができるかっていうところを自分なりに大事にして投げました」「結果も良くなかったですし、内容もそんなに良くなかったと思う」…
— 【MLB速報】放送地区【大谷速報】 (@MLB_comment) March 24, 2026
大谷翔平の援護と、直後に訪れた暗転
立ち上がりは、その遅延を感じさせないほどに静かでした。 24歳の右腕が投じる直球は、150キロ台中盤を安定して計測します。
2回まで、ナショナルズ打線を無失点。 危なげない滑り出しに、スタンドのファンも安堵の息を漏らしていました。
3回、心強い援護が届きます。 1番・指名打者で出場していた大谷翔平選手が、センターへ特大の2号ソロを放ちました。
先制点。 ドジャースベンチが沸き、試合の主導権を握ったかに見えました。 しかし、野球の神様は、時に残酷なタイミングで呼吸を変えます。
その裏、2死一塁の場面でした。 3番のルイス・ガルシア選手に対し、彼は96.5マイル(約155キロ)の直球を投じました。 力で押し切れるはずの一球。
けれど、打球は乾いた音を立ててセンターの頭上を越えていきました。 逆転の2ラン。 ダイヤモンドを回る相手打者の背中を、彼はマウンドの上で、ただ静かに見つめていました。
一塁ベースが弾いた、残酷な打球音
もっとも大きな試練が訪れたのは、4回でした。 2死二塁。 踏ん張りどころで迎えたルイーズ選手の打球は、ボテボテの当たりでした。
誰もが、一塁手フリーマン選手のグラブに収まり、イニングが終わると思ったはずです。 ところが、白球は非情にも一塁ベースの角を直撃しました。
高く跳ね上がったボールは、名手フリーマン選手の頭上を虚しく越えていきます。 記録は、適時内野安打。 3点目を失ったこの瞬間、スタジアムの空気が歪んだようでした。
不運は、さらに重なります。 2死一、二塁。 次打者ジェームズ・ウッド選手に対し、彼は得意のスプリットを投じました。 しかし、指にかかりすぎたのか、それとも湿気のせいか。
ボールは意図した落差を見せず、甘いコースへと吸い込まれました。 完璧に捉えられた打球が右中間スタンドに消えるのを、彼は呆然と立ち尽くして見送るしかありませんでした。
5回を終えて、被安打5、失点6。 日米を通じて自己ワーストという数字が、電光掲示板に刻まれました。
「佐々木朗希はもう限界だ」「中継ぎに回すべきだ」 SNS上には、そんな厳しい言葉が次々と投げかけられていました。 海を渡り、大きな期待を背負う若き右腕にとって、この数字はあまりに重い現実でした。
指揮官が受け取った、数字には表れない「体温」
けれど、試合後の会見場。 デーブ・ロバーツ監督の口から出た言葉は、世間の評価とは正反対のものでした。 「十分に合格点の投球だった」 そう語る指揮官の目は、真剣そのものでした。
「ラインスコア(数字)だけを見て判断する人もいるだろう。だが、あの一塁ベースに当たった打球がなければ、結果は全く違っていたはずだ」
監督が見ていたのは、6失点という結果ではなく、その中身です。 特に、崩れかけた4回の後、5回を無失点で切り抜けた姿を評価していました。
「最後のイニングは、今日一番の球を投げていた。ここで5回を投げきったことが、彼にとってどれほど重要か」 捕手のラッシング選手と何度も頷き合い、配球を修正していく姿。
スプリットを囮に使い、直球でバットの芯を外そうと試みた姿勢。 そこには、ただ力で押すだけではない、メジャーの投手としての「学び」の跡が確かにありました。
防御率は7.00まで跳ね上がりました。 それでも、監督は彼と捕手のコンビネーションを「良い仕事だった」と称えました。 外れる球の一つひとつに意図があったこと。
不運な失点の後も、マウンドで背中を丸めなかったこと。 指揮官は、スコアブックの数字よりも、その「姿勢」に次戦への光を見ていたのです。
泥だらけのユニフォームが残した、静かな決意
5回、90球。 この日の彼の仕事は、そこで終わりました。 その後、強力なドジャース打線が執念の逆転劇を見せ、チームは8対6で勝利しました。
彼の負けは、消えました。 ベンチで仲間とハイタッチを交わす際、彼は少しだけ口角を上げましたが、その瞳の奥にはまだ険しさが残っていました。
試合開始前の激しい雨。 2時間以上の待機。 そして、一塁ベースを叩いたあの打球の音。 メジャーのマウンドは、決して清潔な場所ではありません。
運と不運が交錯し、1球の迷いがすべてを台無しにする。 その過酷な現実を、24歳の彼は今、全身で受け止めています。
ロッカー室に戻り、泥だらけになったユニフォームを脱ぐ時、彼は何を思ったのでしょうか。 「不運」という言葉で片付けるのは簡単です。 けれど、彼はその不運さえも自分の力でねじ伏せる場所を目指しているはずです。
次なる登板の舞台は、また新しい風が吹く街です。 ワシントンの雨に濡れた記憶を、彼は静かに胸の奥に仕舞い込みました。 数字は嘘をつきませんが、数字だけが真実でもありません。
5回を投げきり、最後のアウトを取った瞬間に見せた力強い直球。 その一球に宿っていた体温こそが、次のマウンドへの唯一の道しるべになる。 そう感じさせる、苦い、けれど確かな1日でした。
(参照:THE ANSWER 6失点だけど「合格点だ」 佐々木朗希に悲観的じゃない監督の評価「スコアだけで判断する人もいるだろうが…」)
まとめ
佐々木朗希選手はナショナルズ戦に先発し、5回6失点。日米を通じて自己ワーストの失点数を記録しました。
雨による2時間10分の試合遅延、そして4回には一塁ベース直撃の内野安打という不運が重なりました。
直後の3ラン被弾で崩れかけましたが、5回を無失点に抑えて降板。チームは逆転し、負け投手は免れました。
ロバーツ監督は「数字ほど悪い内容ではなかった」と語り、5回を投げきったスタミナと配球の修正力を高く評価しました。
SNSでは厳しい声も上がっていますが、指揮官は次戦以降への成長を確信しています。
ワシントンの夜が更けていきます。 スタジアムを出るファンの足取りは、逆転勝利の余韻でどこか軽やかでした。 その一方で、明日のマウンドを見据え、一人静かにバスへ乗り込む背番号11。 彼が次に手にするのは、どんな色の白星なのでしょうか。 私たちは、その答えを知るために、また次の試合を待つことになります。
(合わせて読みたい:大谷翔平、雨のワシントンで放った特大2号。佐々木朗希の6失点を拭った逆転の犠飛と、40試合連続の足跡)

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