千賀滉大、中5日で刻んだ復活の足跡。カージナルス、ジャイアンツ戦で見せた新境地と右手の感触

いい感じ? MLB 2026

セントルイス、ブッシュ・スタジアム。 沈みゆく夕日が赤レンガの壁を焼き、乾いた風がマウンドを吹き抜けていました。 2026年3月31日(日本時間4月1日)。

メッツの背番号34、千賀滉大選手が、10カ月ぶりにメジャーの硬いマウンドを踏み締めました。 ロジンバッグを叩き、白い粉が夕闇に舞います。

33歳になった彼がこの日、対峙したのは相手打者だけではありませんでした。 昨年6月に右太もも裏を痛め、思うように動かなくなった自分自身の体。 そして、その奥にこびりついていた、再発への恐れです。

「久しぶりのメジャーでのマウンドで緊張した」 試合後、彼はそう振り返りました。 けれど、プレートに足をかけた瞬間の佇まいは、かつて日本を席巻し、ニューヨークを熱狂させたあの右腕そのものでした。

唸りを上げる99マイル。ブッシュ・スタジアムに響くミット音

1回、先頭のウェザーホルト選手にカットボールを右前へ運ばれました。 緊張が指先に伝わったのか、続く打者も歩かせます。 1死一、二塁。 スタンドのざわめきが大きくなる中、彼は冷静でした。

4番ウィン選手が仕掛けてきたバント安打を素早く処理し、三塁で封殺します。 ピンチを脱した瞬間、スタジアムに流れる空気が変わりました。

2回。 ブッシュ・スタジアムの観客は、日本の至宝が持つ本来の輝きを目撃します。 ウィニングショットはすべて、唸りを上げるような直球でした。

159キロを超える剛速球が、カージナルスの打者のバットを次々と空に切らせます。 3者連続空振り三振。 ミットに収まる「パーン」という乾いた音が、静まり返った夜の空気に心地よく響きました。

3回、3連続安打に味方の拙守が重なり、2点を失いました。 不運な形での失点でしたが、彼はマウンドで独り、静かに前を見据えていました。 「昨年は体のことを心配している自分がいた。

今日は打者のことを考えながら、久しぶりに先発投手としていられた」 その言葉通り、6回まで投げ抜き、最後も3者連続三振で締めくくりました。

92球目でも球速は158キロを記録。 白星こそ手に届きませんでしたが、セントルイスの夜空の下で、彼は完全復活への確かな一歩を刻みました。

サンフランシスコの潮風と、5者連続の静寂

それから中5日。 舞台はサンフランシスコ、海沿いに位置するオラクル・パークへと移りました。 2026年4月5日(日本時間6日)。

マウンドを囲むレンガの壁の向こう側から、冷たい潮風が吹き込んできます。 2度目の先発マウンドに上がった彼は、前回の登板よりもさらに研ぎ澄まされていました。

初回から、彼の代名詞である「あのフォーク」が冴え渡ります。 打者の手元で突如として消えるような軌道に、強打者のアダメス選手も見逃し三振に倒れるしかありません。

2回、メッツ打線が1点を先制した直後のマウンド。 彼は奪三振ショーの幕を開けました。 フォークで空振りを奪い、ストレートで見逃しを奪う。

打者がなすすべなく立ち尽くすたびに、三塁側のメッツファンから熱狂的な歓声が上がります。 3回の先頭打者を斬ったところで、5者連続三振。 サンフランシスコの空に、彼の名前を叫ぶ声が響き渡りました。

5回まで、スコアボードには「0」が並び続けました。 4回に初めて安打を許したものの、危なげない投球です。 「非常にいい1日にしたいと思える登板だった」 前回登板で見せたカットボールを効果的に織り交ぜ、打者の狙いを巧妙に外していきます。

ベテランらしい落ち着きと、若手のような荒々しい球威。 その両方が、潮風の中で見事に調和していました。

6回、3巡目の落とし穴と引き際の苦み

しかし、勝利の女神はそう簡単には微笑んでくれません。 1点リードのまま迎えた6回、ジャイアンツ打線が3巡目に入りました。

先頭に内野安打を許しましたが、後続を打ち取り2死まで漕ぎ着けます。 あと一人。 勝利投手の権利まで、あと一つのアウトでした。

ここで対峙したチャプマン選手に、投じられたのは甘く入った球でした。 左翼線への同点タイムリー二塁打。

続く強打者デバース選手にも、センター前へ運ばれました。 逆転。 88球を投げ終えたところで、監督がゆっくりとマウンドへ歩み寄りました。

交代を告げられ、彼は無念そうに、けれど納得したような表情でベンチへと戻りました。 5回2/3、2失点。 その後、チームが8回に逆転して3連勝を飾ったため、彼の負けは消えました。

今季初勝利はお預けとなりましたが、マウンドを降りる彼の足取りに、かつてのような迷いは見られませんでした。

右手の指先に残った、静かな確信

2試合、11回2/3を投げて16奪三振。 防御率は安定し、何より球速とスタミナが完全に戻っています。 昨年、怪我に泣き、マイナーの硬いベンチで過ごした日々。

そこから彼を支え続けたのは、「もう一度、メジャーの打者と本気で向き合いたい」というシンプルな願いでした。

「お化けフォーク」の精度にはまだ改善の余地があるかもしれません。 けれど、それを補って余りあるカットボールのアレンジと、勝負どころで繰り出す160キロ近い直球があります。

33歳。 投手として円熟味を増す年齢で、彼は自らの投球スタイルをアップデートし続けています。

試合が終わったあとのロッカー室。 千賀選手は、自分の右手の指先をじっと見つめていました。 そこには、敗れた悔しさとは別の、確かな手応えが残っていました。

「非常にいい1日にしたいと思える登板だった」 その言葉は、自分自身への合格点でもあったのでしょう。

メッツの先発ローテーションの柱として、彼は再びニューヨークの象徴になろうとしています。 勝利という数字は、まだ彼の元には届いていません。 けれど、マウンドで躍動するその姿は、数字以上の熱をファンに届けています。

次の登板、彼が踏み出すステップの先に、どんな景色が待っているのでしょうか。 サンフランシスコの夜空を仰ぎ、彼は静かに、けれど強く、次の一戦への闘志を燃やしていました。 名門メッツの浮沈を背負う右腕の旅は、まだ始まったばかりです。

(参照:MLB公式 千賀の好スタート、メッツ先発陣に好材料

まとめ

千賀滉大投手がカージナルス戦、ジャイアンツ戦と2試合連続で好投。昨年負った右太もも裏の怪我からの完全復活を印象づけました。
初戦のカージナルス戦では6回2失点、9奪三振。最速159.7キロを計測し、スタミナ面での不安も払拭しました。
2戦目のジャイアンツ戦では5者連続三振を奪うなど圧倒的な投球を見せましたが、6回に逆転を許し、今季初勝利は次回以降に持ち越しとなりました。
「お化けフォーク」だけでなく、新たに効果を発揮しているカットボールのアレンジなど、投球スタイルの進化が見て取れます。
本人は「打者のことを考えながらマウンドにいられた」と語り、肉体的な不安を克服した精神的な充実感を漂わせています。
スタジアムの照明が消えたあとも、マウンドに刻まれた彼の軌跡は消えることはありません。 初白星を手にするその日まで、背番号34の挑戦は続いていきます。 私たちは、その指先から放たれる一球一球に、新しい物語の始まりを感じずにはいられません。

(合わせて読みたい:今永昇太、雨上がりの敵地で見せた「スプリット」の感触。6回途中1失点、初勝利は消えても残った手応え【4/5ガーディアンズ戦】

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