誰もいないグラウンドに、激しい雨音だけが響いていました。 2026年4月5日(日本時間6日)、ワシントンD.C.にあるナショナルズ・パーク。
正午過ぎから降り始めた雨は、内野の黒い土をまたたく間に泥へと変え、試合開始を2時間以上も遅らせました。 そんな静まり返った左翼付近で、一人、黙々とボールを投じる男がいました。
ドジャースの背番号17。 ずぶ濡れになりながらキャッチボールを続ける彼の視線の先には、3日後に控えたトロントでの先発マウンドがありました。
練習を終え、引き上げる間際。 雨の中で立ち尽くしていた少年に、彼は濡れた手でそっとボールを手渡しました。 その数時間後、この右手がバットを握り、スタジアムの空気を一変させることになります。
雨の中で #大谷翔平 の練習を見守ったファンに…🌧️
本人からボールと写真撮影のプレゼント🙌📸: @AyakoOikawa (及川彩子)さん/MLB.comより#日本人選手情報 pic.twitter.com/bbCRyHBi71
— MLB Japan (@MLBJapan) April 6, 2026
元巨人の左腕、グリフィンとの再会と「184キロ」の衝撃
試合が始まったのは、予定を大幅に過ぎた午後3時44分のことでした。 マウンドに上がったのは、かつて日本の巨人で3年間プレーしたフォスター・グリフィン投手。
「彼は世界一のバッター。抑えられるように一生懸命投げる」 そう語っていた左腕は、初回に彼を空振り三振に仕留めます。 日本を知る者同士の、静かな火花が散る立ち上がりでした。
3回、1死走者なしで迎えた第2打席。 カウント2ボール、1ストライク。 グリフィン投手が投じた4球目、内角へ食い込むカットボールを、彼は逃しませんでした。
乾いた打球音が、湿った空気をつんざきます。 打球速度114.6マイル(約184.4キロ)。 凄まじい速さで飛び出した白球は、センター右の深い芝生へと吸い込まれていきました。
飛距離134メートル。 迷いのない一振りが描いた放物線は、今季2号の先制ソロとなりました。 これで、昨年から続く連続試合出塁は「40」の大台に。 イチロー氏が持つ日本人記録まで、あと「3」に迫る足跡を、彼は着実に刻みました。
【 #ドジャース 】#大谷翔平 第2号先制ソロホームラン💥 前巨人のグリフィンからバックスクリーンへ!飛距離438フィート(133.5m)弾です💪#日本人選手情報 pic.twitter.com/vtpA1DA7g9
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若き右腕の苦闘と、ベテランが見せた「勝ち越し」の執念
マウンド上では、24歳の佐々木朗希投手がメジャー2度目の先発に臨んでいました。 2回までは危なげない投球を見せていましたが、3回に捕まります。 センターへ運ばれた2ラン本塁打。
4回にはさらに3ランを浴び、スコアボードには非情な「6」の数字が並びました。 5回を投げ終え、90球。 うなだれるようにベンチへ戻る若き右腕の背中には、メジャーの洗礼とも言える重圧がのしかかっていました。
1-6。 5点のリードを許した展開でも、ドジャースのベンチは沈んでいませんでした。 5回、彼は右翼線へ二塁打を放ち、3試合連続のマルチ安打を記録。 チームの反撃の狼煙を上げます。
6回に2ランが飛び出し、じわじわと点差を詰めると、ついに8回に試合が動きました。 連続安打で同点に追いつき、なおも好機。 ここで打席に立った彼は、初球を迷わず振り抜きました。
打球は高く、左翼手のグラブへと収まります。 けれど、その距離は十分でした。 三塁走者が生還し、逆転。 彼の犠牲フライが、この日初めてドジャースにリードをもたらしました。 その瞬間、5回6失点で降板していたあの右腕の負けも消えました。
降り止まない雨の中で、次なるマウンドを見据えて
試合は9回にも本塁打が飛び出し、8-6でドジャースが勝利を収めました。 3連勝。 チームは地区首位を快走し、彼自身も開幕直後の沈黙を破るように調子を上げています。
けれど、試合後の彼の表情に浮かれた様子はありませんでした。 試合前、土砂降りの中で行った20分間のキャッチボール。
「打者」として勝利に貢献しながらも、彼の頭の中には常に「投手」としての自分があります。 中2日で迎えるブルージェイズ戦での登板。
右肘の手術から復帰し、再び投打の柱として立つための準備は、雨の日も、風の日も、決して途切れることはありません。
スタジアムを去る頃には、ワシントンの雨はすっかり上がっていました。 イチロー氏の記録まであと3試合。 そして、投手としての復帰マウンドまであと3日。
明日にはまた、トロントの空の下で新しい練習が始まります。 彼が少年に渡したあのボールのように、その一振り一振りが、見守る誰かの心に熱を残していく。
そんな日々の積み重ねの先に、どんな景色が待っているのでしょうか。 静かな決意を秘めた背番号17は、足早に次の街へと向かうバスに乗り込みました。
(参照:THE DIGEST 「ついにショータイムだ!」大谷翔平が放った中堅越え“特大2号弾”に米喝采「忘れないでくれ、オオタニは投手だ」)
まとめ
大谷翔平がナショナルズ戦で今季2号ソロを放ち、4打数2安打2打点と躍動。チームの3連勝に大きく貢献しました。
元巨人のグリフィン投手から放った本塁打は、飛距離134メートルの特大弾。連続試合出塁記録を「40」に伸ばしました。
先発の佐々木朗希は5回6失点と苦しみましたが、打線の援護により敗戦は免れました。
試合前、大雨の中でキャッチボールを行い、8日のブルージェイズ戦登板に向けて調整を続けています。
114.6マイル(184.4キロ)の打球速度は、スランプ脱出と完全復活を強く印象づけるものでした。
クリーブランドの冷たい風、シカゴの曇り空、そしてワシントンの雨。 各地の空気を吸い込みながら、彼は少しずつ、けれど確実に本来の姿を取り戻しています。 記録への期待と、二刀流としての再出発。 その両方を背負って立つマウンドは、もうすぐそこまで来ています。
(合わせて読みたい:岡本和真、シカゴの寒風で見せた三塁守備。3打数無安打も現地を沸かせた一瞬の反応【4/5ホワイトソックス戦】)


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