フェンウェイ・パークのレンガ壁は、ボストンの冷たい夜風を吸い込んで、ひやりとしています。 2026年4月6日(日本時間7日)。 スタンドを埋めたファンの吐く息は、まだ白く濁っていました。
かつて誇り高く翻っていた優勝旗の影で、今は異様な合唱が響いています。 「Sell the team(チームを売れ)」。 セットポジションに入る投手の背中に、その鋭いリズムが突き刺さります。
野次を越えた、一種の拒絶。 伝統ある球場の空気が、これほどまでに刺々しくなったことがあったでしょうか。
【 #レッドソックス 】 #吉田正尚 が2試合連続安打🧦
シングルヒットに加え2四球!2番スタメン抜擢の期待に応え、3度の出塁を記録しました👏
ここまで出塁率は驚異の.478、OPSは.875と、定位置奪取へ素晴らしいアピールを続けています⏫#日本人選手情報 pic.twitter.com/ZL7seVHxvd— MLB Japan (@MLBJapan) April 7, 2026
崩れゆくマウンドと、鳴り止まない大合唱
3点リードで迎えた4回、球場の雰囲気は一変しました。 先発投手の指先から、制球が零れ落ちていきます。 内野安打と二つの四球。 無死満塁。
マウンドに集まる内野陣の背中が、どこか小さく見えました。三塁手の前に転がった、変哲のないゴロ。 捕球し、一塁へ。 それだけで終わるはずのプレーでした。
しかし、ボールはグラブの縁を叩き、無情にも土の上を転がります。 失策。 その瞬間、球場を包んでいた「Sell the team」の声は、さらに音量を増しました。
後を継いだ投手も、流れを止められません。 連続適時打、そして押し出しの四球。 電光掲示板に刻まれた「4」の数字が、ファンの怒りに油を注ぎます。 必死に腕を振る選手たち。
それを見つめながら、オーナーへの不満を爆発させる観客。 グラウンドとスタンドの間にある深い溝が、あらわになった瞬間でした。
「もう、うんざりだ」という叫びと、弟の冷ややかな視線
不穏な空気は、さらに加速します。 3回、内角高めへ投じられた149キロのシンカーが、打者の手をかすめました。 昨オフにトレードで加わった、背番号40、ウィルソン・コントレラス選手。
彼はマウンドを睨みつけ、激しい言葉を浴びせました。 ベンチからコーチ陣が飛び出し、乱闘寸前の事態になります。
「彼らはいつも『わざとじゃない』と言う。もう、うんざりだ」 試合後、彼は吐き捨てるようにそう語りました。 「次に当てたら、ぶっ飛ばしてやる」
しかし、その激しい言葉を受け止める周囲の視線は、ひどく冷たいものでした。 かつて同地区で競り合った敵陣の主砲は、こう言い切りました。
「あの寸劇は10年前から見ている。何も新しくない」 さらに、敵の正捕手を務める実の弟さえも、肩をすくめて笑いました。
「兄は、ああいう演技をするんだよ」 血を分けた弟だからこそ知る、兄の激情の裏側。 張り詰めた空気の中で、その言葉だけが、ひどく虚しく響いていました。
吉田正尚、静かに貫く「プロの仕事」
そんな混乱が渦巻く中で、一人、淡々とバットを振る男がいました。 吉田正尚選手です。 「2番・DH」でスタメンに名を連ねた彼は、騒がしいスタンドを背に、静かに打席へ入ります。
4回、2死一塁。 145キロの高めシンカーを鋭く叩くと、打球はセンターの前で弾みました。 2試合連続の安打。 前日の猛打賞で見せた輝きを、この日も失っていませんでした。
それ以上に地元記者たちが目を奪われたのは、彼の「見送る姿」でした。 二つの四球。 ボールがミットに収まる寸前まで、彼は微動だにしません。
「彼を毎試合使うべきだ」 「バリー・ボンズ級の選球眼だ」 最下位に沈むチームの中で、彼の打席だけが「プロの仕事」として高く評価されていました。
派手な叫びも、激しいパフォーマンスもありません。 ただ、自分にできる最善を積み重ねる。 その献身的な姿勢こそが、今のボストンにはもっとも欠けているものに見えました。
2勝8敗、ボストンの長い春
試合は6対8で終了しました。 3連敗。 全30球団を見渡しても、いまだに2勝しか挙げていないのは、この名門チームだけです。 ヤンキースとの差は、早くも5.5ゲームにまで広がりました。
試合終了の瞬間、ファンは足早に席を立ちました。 地下鉄の駅へと向かう人々の肩は、心なしか丸まっているように見えます。 オーナーへの不信感。 繰り返される守備のミス。 そして、一人の打者が静かに積み上げた安打。
ボストンの春は、まだ遠い場所にあります。 ベンチ裏へと引き上げる選手たちのスパイクの音が、コンクリートの通路に虚しく響いていました。
明日の空の色は、今日よりも少しは明るくなるのでしょうか。 背番号34のユニフォームを着た子供が、寂しそうにグラウンドを振り返っていました。
(参照:日テレNEWS レッドソックス・吉田正尚は前日の今季初ヒットから2試合連続安打 2つの四球を選ぶなど3出塁 得点に度々貢献)
まとめ
- レッドソックスがブルワーズに6-8で敗れ3連敗。開幕10試合で2勝8敗という泥沼のスタートとなりました。
- フェンウェイ・パークのファンからは、オーナーのジョン・ヘンリー氏に向けて「チームを売れ」という大規模なチャントが発生しました。
- 吉田正尚選手は「2番・DH」で出場し、1安打2四球の3出塁。選球眼の良さに地元メディアから絶賛の声が上がっています。
- ウィルソン・コントレラス選手が死球を巡り乱闘寸前の騒ぎを起こしましたが、実弟を含む周囲からは冷ややかな反応を示されました。
- 10試合で2勝しかできていないのはMLB全30球団でレッドソックスのみ。チームは深刻な不振に喘いでいます。
地下鉄の入り口で、熱いコーヒーを啜る老人が一人、ぼそりと呟きました。 「フェンウェイが、こんなに静かなのは久しぶりだ」 明日の試合も、またボストンで始まります。 ファンが求めているのは、言葉ではなく、たった一つの、泥臭い白星なのかもしれません。
この記事で、ボストンの今の空気感は伝わりましたでしょうか?
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