トロント、ロジャース・センター。 開閉式の屋根が閉じられた球場内は、人工芝特有の乾いた匂いと、カナダの熱狂的なファンの声に満ちていました。 2026年4月6日(日本時間7日)。
昨年のワールドシリーズで火花を散らした相手、ドジャースを迎え撃つ初戦。 ブルージェイズの背番号25、岡本和真選手は「4番・三塁」として、その喧騒の中心に立っていました。
試合開始直後、スタンドの視線は一人の男に集中します。 1番に座る大谷翔平選手。 彼が打席に向かう際、地元のファンは容赦ないブーイングを浴びせました。
それは、彼らがこの対戦を「ただの公式戦」とは思っていない証拠です。 その空気の中で、岡本選手は静かに土を蹴り、自分の守備位置を確認していました。
【 #ブルージェイズ 】本日の #岡本和真 は4打数2安打👏🏻
チームは2-14で敗れるも、1回と6回にそれぞれシングルヒットを放つ活躍を見せてくれました!#日本人選手情報 pic.twitter.com/Uw1OJ93XAc— MLB Japan (@MLBJapan) April 7, 2026
股の間を抜けていった、170キロの衝撃
異変が起きたのは、3回表でした。 ドジャースのパヘス選手が放った打球は、三塁を守る岡本選手の正面へ飛びました。 打球速度105.8マイル(約170.3キロ)。
それは、捕球というより「衝突」に近い速度です。 人工芝を激しく叩く白球の音。 バウンドを合わせようとした岡本選手のグラブが、一瞬、空を切りました。
白球は無情にも彼の股の間を抜け、外野へと転がっていきます。 メジャー10試合目にして記録された、初めての失策。 スタンドからは溜息が漏れ、彼は帽子を脱いで一瞬だけ視線を落としました。
日本で何度もゴールデングラブ賞を手にしてきた彼にとって、その感触はひどく異質なものだったに違いありません。
「打球が強烈だった。彼はこれまで安定していた」 シュナイダー監督は試合後、そう言って彼を庇いました。 けれど、記録された「E」の文字は、この夜の重苦しい展開を予感させるものでした。
地元メディアが突きつける「4番の資格」
試合がドジャースの一方的なペースで進む中、地元の放送局TSNのブースでは、厳しい議論が交わされていました。 「岡本を、ブラディ(ゲレロJr.)の後ろに置くのは正しいのか?」 ホストのブライアン・ヘイズ氏の声が、スピーカーを通じて響きます。
今季、ここまで18個の三振。 打席の半分近くでバットが空を切っているという事実は、地元メディアにとって格好の批判材料となっていました。
大リーグ公式サイトのキーガン・マシソン記者も、その意見に同調します。 「今の岡本なら、三振に取れる。相手投手はそう考えてブラディとの勝負を避けるだろう。
これはBジェイズにとって、シーズンを通した問題になる」 メジャーの洗礼、と言えば聞こえはいい。 けれど、一打席ごとに審判が下されるこの場所で、かつての「日本の4番」という肩書きは何の守りにもなりません。
投手が投じる一球の重さ。 環境の違い。 言葉の壁。 すべてが、バットを振るスピードをわずかに狂わせているのかもしれません。
158キロを弾き返した、意地の放物線
批判の声が渦巻く中、彼はバットでその口を封じようと試みました。 初回、左腕ロブレスキ選手から放ったレフト前への痛烈なヒット。
そして6回、右腕クライン選手が投じた158.4キロの豪快な直球を、彼は逃しませんでした。 外角へ逃げるボールを強引に右前へと運ぶ。
9試合ぶり、今季2度目のマルチ安打。 そのスイングには、自分を疑う迷いは微塵も感じられませんでした。
どんなに三振を重ねても、エラーを犯しても、彼は次の打席でまた、同じようにどっしりと構えます。 その姿には、日本で巨人の主将を務めた男としての誇りが滲んでいました。
けれど、8回に迎えた第4打席。 164キロという、もはや目では追いきれないほどの剛速球がミットに収まるたび、観客は驚きで息を呑みました。
空振り三振。 最後は膝をつくような形になり、彼は苦笑いを浮かべながらベンチへ戻りました。 「まだ、届かない」 そう言っているかのような、静かな後姿でした。
山本由伸、そして大谷翔平との対峙
チームは2対14という惨敗を喫し、5連敗。 借金は「2」に膨らみました。 試合後、静まり返ったロッカー室で、岡本選手は何を考えていたのでしょうか。
明日、彼はかつて日本で何度も刃を交えた山本由伸投手と対戦します。 NPB時代、彼は山本投手からホームランを放ち、打率5割と圧倒していました。 しかし、ここはトロント。
互いに海を渡り、違うユニフォームを着て対峙するマウンドは、あの頃とは全く別の色をしています。 そして明後日には、今日ホームランを放った大谷翔平選手とも顔を合わせます。
失策の感触、164キロに届かなかった悔しさ、そして4番としての重圧。 すべてを飲み込んで、彼はまた明日も人工芝の上に立ちます。
「いずれ彼は適応するだろう」という記者の言葉を、現実に変えるための時間は、まだ十分に残されているはずです。
(参照:日テレNEWS 岡本和真 マルチ安打記録もドジャースに敗れる 強みの守備では股の間を抜けるメジャー初エラー)
まとめ
- 岡本和真選手はドジャース戦に4番で出場。4打数2安打のマルチ安打を記録しました。
- 3回の守備で、打球速度170キロの強襲ゴロをトンネル。メジャー初失策を喫しました。
- 地元メディアからは、三振の多さを理由に「4番から降ろすべき」という厳しい指摘も上がっています。
- チームは2-14で大敗し、5連敗。大谷翔平選手には今季3号を許しました。
- 明日からは山本由伸投手、大谷翔平投手との「日本勢対決」が続きます。
試合後のスタジアム。 清掃員がゴミを拾う音が響く中、岡本選手は室内練習場でバットを振っていました。 164キロの残像を消すように、何度も、何度も。
次に対戦する、あの右腕の球筋をイメージしているのでしょうか。 答えは明日の、最初の一球が教えてくれるはずです。
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