【ミラノ五輪】「4回転」に沸くZ世代へ。30年前、僕らが『膝』に命をかけた理由

伝説の男 五輪コラム

2026年3月、ミラノ・コルティナ五輪。モーグル会場で堀島行真(ほりしま いくま)選手が放った超大技「1440(フォーティーンフォーティ:4回転)」に、世界中が驚いています。

「人間業(にんげんわざ)じゃない!空中で何回まわったの?」「今のモーグルは、もうスキーというより空中戦だね」

SNSがそんな驚きで溢(あふ)れる一方で、私のような「スキー歴30年組」は、少しだけ寂しそうな、でも誇らしい顔でつぶやきます。

「今の空中戦もすごい。でも……僕らは、あの膝をピタッと合わせた『1ミリの美学』に命をかけていたんだよ」

膝の間に「スポンジ」を挟んで滑ったあの日

30年前、僕らのヒーローはエドガー・グロスピロンでした。 当時のモーグルは、今のような「回転数」よりも「ターンの美しさ」がすべてだったのです。

(参照:Olympics.com:モーグルの伝説、エドガー・グロスピロン。膝を揃えた「芸術的ターン」がいかに世界を変えたか

  • 膝の間にスポンジを挟んで、落とさないように滑る修行(しゅぎょう)

  • 両足が「一本の棒」に見えるまで、ひたすら膝を絞り込む

  • 膝の内側が擦(す)れて赤くなっても、さらに絞る

「膝が開いたら、それはモーグルじゃない」 そう教え込まれた僕らは、足がパンパンになっても、ただひたすらに「一本のライン」を追い求めていました。

コブを抜けた瞬間、膝が吸い付くように揃っている時の「雪と一体になった感覚」は、今でも私の足裏に鮮明(せんめい)に残っています。

0.27点の差。1440を支えるのは「30年前の基本」

今のモーグルは、確かにド派手な空中戦に見えます。でも、30年滑ってきた私の目には、別の景色が見えています。

実は、4回転も回る今の選手たちこそ、誰よりも「基本のターン」を大切にしています。今回のミラノ五輪、堀島選手のエア(空中技)は間違いなく世界最高得点でした。

しかし、金メダルとの差を分けたのは、わずか「0.27点」。その正体は、着地後のわずかなラインの乱れ……つまり『ターンの正確性』だったのです。

4回転を飛ぶ魔法のような時代になっても、結局は30年前に僕らが泥臭く練習した『足元の美しさ』が勝負を握っている。この事実に、ベテランとして震えるような感動を覚えました。

(参考:読売新聞:モーグル堀島、意地の4回転。同点で並んだ金銀を分けたのは「ターン点」のわずかな差だった

道具が変わっても、最後に残る「美学」

今は板も軽くなり、AI設計で勝手に回ってくれるような高性能な道具があります。でも、どんなに時代が変わっても、コブを滑り降りてきた選手の「膝」がピタッと揃った瞬間、見ている人の心は震えます。

それは単なる「点数」ではありません。そこには、僕らが30年間信じてきた「雪と道具への敬意(けいい)」が宿っているからです。

まとめ:次にコブへ入るあなたへ

もしあなたが、今のド派手なジャンプに憧れてモーグルを始めるなら。一回だけでいいので、自分の「膝」を意識してみてください。

1440を飛ぶことは難しくても、膝をキュッと寄せてコブを一つ、静かに越えることなら、今日からできます。その「1ミリのこだわり」が、30年後のあなたに、今の私と同じような「最高に美しい景色」を見せてくれるはずです。

(合わせて読みたい:【ミラノ五輪】「板が勝手に飛ぶ?」2026年の魔法と、僕らがメタルに捧げた30年

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